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東京地方裁判所 昭和32年(行モ)18号 決定 1957年12月25日

申立人 高美子

被申立人 東京入国管理事務所主任審査官

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は申立人は高泰浩を父とし、徐昌林を母として昭和三十一年十二月八日本邦において出生した韓国人であるが、昭和三十二年四月十日東京入国管理事務所入国審査官は、申立人に対し出入国管理令第二十四条第七号に該当すると認定したので、申立人は特別審査官に対し口頭審理の請求をしたところ、特別審査官は入国審査官の判定に誤りがない旨判定した。そこで申立人は右判定につき法務大臣に対し異議の申立をなしたところ、同年六月六日法務大臣は右申立を理由なしと裁決したので同月十三日相手方は申立人に対し退去強制令書を発布した。しかしながら、申立人は嘗て在留資格を取得したことがあり、当年僅か一歳の幼児であつて全く独立の生活能力を欠いており、申立人の母徐昌林も相手方より退去強制令書の発布を受けている者であるがその本国たる韓国においては生活の基盤を有せず、申立人を連れて帰国するときは生活の方途に迷わなければならない者で、申立人の父は本邦に在留する資格を有し生活の安定をえており、申立人は父のもとで養育されるのが適当であるし、申立人一家は本国よりもむしろ本邦に生活の本拠を有しているとみるべきである。したがつて右事情を参酌すれば、法務大臣は前記裁決をなすに際し申立人に対し特別在留許可を与えるべきであつたにもかかわらず、申立人に特別在留許可を与えることなく申立人のなした異議申立を理由なしとした法務大臣の裁決には裁量権を逸脱した違法があり、したがつて右裁決に基き相手方がなした退去強制令書の発布も違法である。しかるに、もし直に右処分を執行されると、申立人は償うことのできない損害を蒙るから右処分の執行停止を求めるため本件申立に及んだというのである。

相手方提出の疏明資料によれば、申立人の母徐昌林は申立人に先立ち相手方から退去強制令書の発布をうけ、昭和三十一年九月十日相手方に対し自費出国許可申請をなし、駐日韓国代表部より入境許可書が下附された場合は自費出国する旨誓約し昭和三十二年二月二十一日には申立人と共に韓国代表部より入境許可書の下附を受けたことが認められ申立人の母の自費出国の許可申請等が真意に基くものでないこと認めるべき何等の資料もない。以上の事実から判断すると申立人の母が本邦を退去する場合には、退去強制令書の発布により退去を強制されるまでもなく申立人も母に伴われて本国に帰国するはずであつたことがうかゞわれ、右のような状況の下では、申立人につき償うことのできない損害が生ずることを避けるため本件処分の執行停止を求める緊急の必要があるとはいえないし、他に償うことのできない損害の発生を避ける緊急の必要性を認めるに足る疏明もないから本件申立は理由がない。

よつて本件申立を却下することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 松尾巖 地京武人 越山安久)

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